とあるひに とあるところで by hukurousagi

#jeweldoll
「ねえ……っ____ねえっ!ねえ、きこえているんでしょう、貴方っ…とまりなさいよ!!!」
雪が降り頻る中、[彼女]がこちらに駆け寄り、大きな声で人を呼ぶ。
耳に響くその声に、苛立ちが隠せず、不機嫌な態度で振り返った。
「...静かにしてくれないかしら。人形は、繊細なのよ。そうよね、エミリー?」
「彼女」に呼ばれたであろう少女はすぐ下にいる、髪を二つしばりにしている1mにも満たない程の人形に話しかける。
綺麗な橄欖色の瞳と髪を持つ、少女の人形。
我ながら、よくできていると思う。可愛らしく、しかしどことなく凛々しい彼女の姿が、少女は好きで、その人形を[エミリー]と名付けて、庭に連れて一緒に散歩していた。
だから、この時私は「彼女」のせいで、エミリーとの二人っきりの散歩の時間を害されていたことに腹が立っていた。
人形はこくん、と頷いた。
「...それに...私は、[貴方]じゃなくってよ。それとも...人の名前も覚えることができないのかしら...ごめんね、エミリー...先に帰っててくれないかしら...ええ、そうね。お願い」
「...相変わらず、気味が悪いわね、ダイアナ。一人でお人形遊び、かしら」
気に入らない。「彼女」の顔立ちが、声が、態度が。
全てが、何もかもが気に入らない。
「やめてちょうだい、気分が悪いわ。貴方は私を怒らせたいのかしら」
「私にはいつも気分が悪そうな顔をしてるように見えるわよ」
「...しつこいわね。本題は?本題はなんなの、コーラル。用もなし、ってわけじゃないんでしょう、早くしてちょうだい。暇じゃないのよ。」
「冷たい言葉...連れないわね。...今日は聞きたいことがあってきたの」
そういうが矢先、ダイアナのリボンに手を伸ばそうとする。
しかし、ダイアナはそれを避ける。
「何するのっ...やめてちょうだい、なんのつもり...?」
小さく悲痛な声をあげる。...しかし「彼女」は表情を変えることなく、言葉を紡ぎ続ける。
「そのリボン。同じ...よね。」
「...?」
なんの話だ。「彼女」の目的が見えない。...その時の「彼女」はあまり良い表情ではなかった。
「わからない?私の、と。ダイアナ...貴方のリボンが。」
「...あ、あぁ...そう。そのこと...」
...?リボンが同じだから、なんだというのだ。
見ればなんだか今にも死にそうな顔をしている。気が狂う。いつもの「彼女」ではない。なんだか、ぎこちない。
「なんだ、知ってたの」
「ええ、それが、どうかしたの」
淡々と話す彼女に驚いていた。いつものような無駄話はどこにいったのだ。「彼女」はよく喋る人形だったはずだ。
「教えてほしいの。このリボンの、売ってる場所」
「い、や、よ!」(即答)
しまった。反射的に、答えてしまった。
よく、話も聞いていないのに。でも、「彼女」に何か頼まれる、というのは新鮮だった。だけど、どうして?
「彼女」は一瞬、顔を曇らせたが、すぐに作り笑いを浮かべ、上目遣いでこう言った。
「お願いよ、どうしても、必要なの。今までとってきた態度も謝るし、なんでもするわ、だから、お願い。教えてくれない、ダイアナ」
あぁ、あぁ!!!!なんてこと、なんてことなの!!!
心が、ふつふつと泡立ち、苛立つ。
やめて、やめてちょうだい、お願い。これ以上、私の心の中に入ってこないで。

コメントに続く

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painted on a Nintendo 3DS
12 Dec, 2016, 3:29 am
01:19

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hukurousagi

12 Dec, 2016, 1:03 pm

「彼女」の、はにかむような微笑みも、上目遣いの目も、父の愛した、忌まわしきあの方に、そっくりで、胸が苦しくなる。
これ以上私に関わってこないでよ

[主人、酷い顔。綺麗なのにもったいないよ]

ふっ、と声が聞こえたような気がした。
(これは...エミリー...?)
さきほど帰らせた、橄欖色の人形。
これを言われたのは、父の命日の日。
父の亡くなった場所に花束を備えている時だった。
エミリー曰く、酷い顔をしていた、らしい。
(いけない。平常心を保たなくては)
「彼女」に、弱いところを見せてはいけない。私は常に、強くなくてはならないのだ。
私のために。そして、父のために。
軽く、深呼吸をして、言葉を紡ぐ。
「どうしようかしら。そのリボンが、なんだというの」
大丈夫。ちゃんと、紡げてる。うわずってない。震えてない。大丈夫。
「冷たい態度。連れないわね。...もっと、愛想よくしたら?」
「心配には及ばなくてよ。私は貴方のような痴女じゃない」
そう、私は、貴方のような人形にはならない。
大丈夫、大丈夫よ。

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